昔から「歯は財産」といわれる。歯を整えることは口腔内のトラブル対策にもなり、自分への投資といえる。
最近では男性の歯の矯正率が高まっているという。
その背景にあるのはいったい何だろう? また、歯医者嫌いの人が普段から心がけることとは?
あわしまデンタルオフィス医院長のDr.Yukoこと、岡本裕子さんに話を聞いた。
男性の矯正率が増加傾向に
あわしまデンタルオフィス(世田谷区代沢)は淡島通り沿いにある。
コンクリートの外壁のオシャレな建物で2008年から開業する歯科医院の受付は1階で、診療室は地階。吹き抜けの天井越しに空が見え、気持ちのよい空間で治療を受けられる。
矯正医でもあるDr.Yukoが男性の矯正について話す。
「うちでは最初は一般歯科で虫歯や歯周病の治療に来ていた患者さんが矯正治療に移行するケースが目立ちます。男性で審美目的の方は2割、歯周病対策の方が8割ですね」
なるほど、矯正といえば美しい歯並びに変身して笑顔に自信をもつため?と思いきや、意外にも歯周病対策だったとは…。
なぜ、矯正が歯周病対策になるのか?
あわしまデンタルオフィスで矯正を行っている男性患者は20〜70代。就職前に歯並びを治しておこうと考える学生から、保険会社や外資系企業に勤務する人も。
なかには60歳を過ぎた方から「生涯、自分の歯で食事をしたいから」と矯正を依頼されることもある。
「矯正することで歯並びが整い、歯が磨きやすくなります。磨き残しがないとお口の中のトラブルも減りますよね。ちなみに歯周病や歯槽膿漏は感染症ですから、家族の誰かが罹っていたら、家族全員に感染しています。最近は小学生にも歯周病がみられますよ」
なお、日本の虫歯治療で用いられる金属の被せ物はイオン化すると身体を蝕む要因になるともいわれている。
最近は金属製の被せ物に使用は減少傾向にあるというが、これには日本の保険制度が適用され、あまりお金をかけずに治療できるといった背景がある。
ほとんどの外国では歯の治療は自費診療だ。保険がきく日本とは歯に対するリテラシーが大きく異なる。
矯正の期間
矯正は口の中に器具を施す。気になるのはその治療期間だ。
「歯並びやはお口の中の状態によりますが、治療に来ていただく期間は1〜3年ですね。ただし、歯は動くので、治療途中で通院をやめるとその分、治療が長引くこともあります」
なお、装着した時の見た目があまり気にならない「マウスピース型」の器具や部分的に歯を移動させる「部分矯正」も可能だ。部分矯正はすべての歯を矯正するよりも低価格で短期間での治療が可能になるが、適応症例が限られる。
歯周病対策にもブラッシングを徹底したい
歯を矯正しても、歯周病はなくなるわけではない。やはり、ホームケアは欠かせない。実はこれが一番大切なのでは?
「虫歯や歯周病になったら歯医者で治し、また虫歯や歯周病になったら通院…という人が多い。そうなると本当に負のサイクルなのよね。お口の中をキレイにする毎日のブラッシングさえ身についたら、歯科衛生士の技術でキレイになったお口がずっとキープできます。
ですから、患者さんにはちゃんとしたブラッシングを身につけてほしい。うちでは『あわしまメソッド』と名づけていまして、このブラッシング法を伝えることは自分のミッションでもあります」
世界でただ一つの「あわしまメソッド」とは
普段、顔を洗うのと同じように無意識のうちに行っているブラッシングだが、あわしまメソッドにはコツがあり、それを習得する必要がある。同院では2008年の開業と同時にこのブラッシング方法を提唱している。
ブラッシングの方法を簡単に紹介してもらった。
「通常は歯ブラシの毛先を歯茎に向けますよね。でも、それでは毛先が歯周ポケットに全く入らないんですね。そうではなくて歯周ポケットに届くよう、歯ブラシを下から上へと動かしてみてください」
「歯医者は虫歯や歯周病を治すのに専念していましたから、ブラッシングまでは手が回らなかったところが多いかも。だから、歯ブラシを販売する会社があんなに宣伝していても、上手くできない人がいるのは当たり前です。あわしまでは、その人にあったオーダーメイドのブラッシングの方法を伝えていんですよ」
歯磨きは自分磨き。歯医者から自立しよう
なぜ、Dr.Yukoはそれほどブラッシングにこだわるのだろう。
「通常、患者さんはお口のトラブルが生じると『先生の言う通りにしますから、治してください』と歯医者にかけこんでくるように思います。依存の関係ですよね。虫歯や歯周病になって治療を受けるより、普段からの予防が大切です。
それにはホームケアであるブラッシングが一番大切という。
「私たちは『あなたはこれからどうしたいですか? きちんとしたブラッシングが出来ていたら、歯医者に来なくてもすみますよ』と言います。自分でケアして、歯医者から自立してほしい。歯磨きは自分磨きだと思いませんか?」
たしかに、ブラッシングを制する者はお口の中を制するといえるかも。
定期検診がちゃんと歯みがきが出来ているかチェックする場になるなら、機械や器具がギーンと鳴ってちょっと怖いイメージのある歯医者さんにも気軽に行けそうだ。
お口の菌活も並行しよう
お口の中をキレイに保つホームケアはブラッシングの他に菌活もオススメだ。
「ロイテリ菌」という、人の身体に良い働きをする善玉菌(プロバイオティクス)を摂取することで、善玉菌と悪玉菌とのバランスをコントロールできるらしい。
「歯医者で歯石を除去して口腔内の環境を改善する方法もありますが、最近では菌によって細菌を減らす技術があります。それがスウェーデンで生まれた、L.ロイテリ菌をいかしたバクテリアセラピーです。虫歯の多い患者様にすすめていますが、3ヶ月続けることでお口の中が改善していくようです。ただし、誰にでもということはなく、菌が生着しない患者様もいらっしゃいます」
バクテリアセラピーは毎晩丁寧にブラッシングをした後、ロイテリ菌を含むタブレットを舐める、あるいはガムを噛むだけ、という簡単なもの。お口の菌活は歯石除去を行った後から始めるのがベストだ。
歯科業界を変える挑戦!
これまでの話を聞いて思った。
歯のブラッシングや菌活を徹底してやると、治療費(医療費)の軽減につながるのではないだろうか。
「やっと厚生労働省も認めましたが、昔は歯の定期検診は保険の適用外だったんですよ。私たち歯医者は虫歯になるのを防ぐため、定期検診を患者さんにすすめる活動を地道に行ってきました。それが認められて、保険に導入されるようになりました。こうして医療費を歯科界だけでも少なくしていきたいです。
病気によっては高額な医療費がかかりますが、それで重篤な病気も治るようになりました。個人的には虫歯や歯周病で医療費を使うのではなくて、高度医療などに医療費を使える体制に変えていきたい。地道に歯科業界を変える挑戦をしています」
「歯科界の常識を覆したい」と熱く語るDr.Yukoは講演などを通じて、自身のミッションでもあるブラッシングの大切さを伝えていきたいと願う。
お口は人間のエネルギー源である食べ物を摂取する玄関口。ちゃんと噛めて飲み込むことができて、その機能を果たせる。
食いしん坊でなくても「自分の歯で食べられる」ことは幸せだ。それには矯正やオーダーメイドのブラッシングなどが助けになるはずだ。
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岡本裕子プロフィール