東京都内にマイホームを持ちたい、それも自分や家族のこだわりを反映させた注文住宅を…と考える人もいらっしゃるだろう。
今回は日本で一番地価の高い東京都内で注文住宅を建てる方法について、建築家であり、建栄(豊島区駒込)の設計室長を務める竹内柾人さんに話をうかがった。
どんな人がどんな気持ちで家づくりを行うのだろうか
建栄は設計事務所と工務店が一体となった会社だ。自社で設計したものを、自社の大工が施工する。
「1年間に手がける注文住宅は年によって変わりますが、5〜10棟です。その他、戸建て及びマンションのリノベーション、店舗の内装などが10~20件ほどございます。お客様はご紹介が3割程度、それ以外は弊社のホームページもしくはインターネット上で私どもが紹介されている記事をご覧になった方ですね」と竹内さんは話す。
お客様との初顔合わせも重要だ。
「お問い合わせいただいた方には、まず面談をお願いします。工場で作られたものを手に取って確認し購入できる工業生産品と違い、注文住宅はたぶん人生で一番高い買い物になるにも関わらず、出来上がるまで完成形は確認できないという代物です。
それゆえに依頼者側は、どんな人がどんな気持ちで住宅を作って、どのように保証してくれるのか心配で仕方ないと思います。一方、引受ける側も同様に依頼者はどんな人でどんな希望をお持ちなのか、実現可能なご相談なのか?といったことなど、実はあれこれ心配しているのですが…。
まずは会ってお互いの相性を確認することから家づくりは始まります。弊社は設計から施工までを行う会社ですので、設計についての考え方からはじまり、施工や完成後のメンテナンスの考え方から住宅ローンも含めたお金の話などを説明します。その際にご質問を交えながらご希望や価値観などをうかがっていきます」
東京都内は土地代を安く入手できるかがポイント
東京都内は土地相場が高い。全国でも延床面積が最も狭いうえ、新築の住宅にかかる費用は平均5,644.3万円と全国で一番高い(住宅金融支援機構『2018年度利用者調査』より)。注文住宅を所有するには難易度の高い地域である。
「東京都内だと場所によりますが、50平米(15坪)の土地で約4000万円はかかると思います。また土地代以外に、私どもと一緒に家づくりを希望される方には28坪の住宅で2500万円を建築費として用意していただくケースが多いですね。都内で注文住宅を建てる場合は土地を安く入手することがポイントかもしれません。土地には路線価があるので掘り出し物を見つけられるといった夢のような話はありませんが、比較的、安価なのは変形敷地ですね」
変形敷地とは三角形などの多辺な土地や傾斜地、がけ際、極端に細長い土地のことをいう。一般的に住宅建築には不向きとされ、その分、土地の価格が安めに設定されていることが多い。
「都内に一戸建てが欲しいけれど、予算が厳しいという方もいらっしゃると思います。そんな方には選択肢として中古マンションを購入し、リノベーションをする提案を行うこともあります。土地代よりも安く買える物件も多くありますから」
ファーストプラン提案から引き渡しまで
面談でお互いの家づくりに対する思いを共有後、希望者には住宅にかかる費用をまとめた資金計画書を提出する。
「ある程度の予算配分が決まったところで、ファーストプランとして敷地に当てはめたプラン(間取り)と形状(デザイン)概算工事費を提出させていただきます。設計契約をした後でなければプランの提示はできないという設計事務所が多いかと思いますが、計画敷地にどんな家が入るのかわからずに契約してくださいというのは、人生で一番大きな買い物をする方に対して丁寧でないような…そんな考えから弊社ではここまでを無料のサービスとしています。
ファーストプランの方向性をご了承いただければ設計契約を交わし、引き続き設計の精度を上げていきます。設計期間は2~3週間に1度の打合せで2ヵ月ほど設け、設計図が完成したら本見積もりをします」
本見積りに合意すると工事請負契約を交わし、住宅の施工が始まる。その後5~6ヵ月かけて完成させ、引渡しとなる。
年収がいくらだったら東京都内で注文住宅を購入できる?
住宅を購入する場合、住宅ローンを組むケースがほとんどだ。建栄でもお客様の8〜9割が利用する。
「ローンの相談を受けた場合は、提携契約してる住宅ローンアドバイザーが同席して打合せを行います。依頼主のご希望を聞いた上で、金融商品のメリット・デメリットを丁寧に説明し、数ある金融商品の中から総合的に一番メリットのあるものをその場でご案内します。ローンを利用する場合は金利が安いことも当然重要ですが、生涯支払う金額を踏まえて返済の仕方とリスクをどのように考えるかということが重要だと思います」
住宅ローンの総返済負担率は一世帯年収の20%が相場といわれる。
- 計算式:毎月の返済額=(世帯年収/12)×0.2
※年2回の賞与時も含めたら、(世帯年収/14)×0.2
年収や支払い完了時の年齢を想定して換算すると、東京都内で注文住宅を購入するには30〜40代前半で一世帯600万円以上の年収が現実的といえるかもしれない。
竹内さんはこうアドバイスする。
「設計者っぽくないかもしれませんが、生涯手にするお金の中で『いくら』を家づくりに投下しますか?という点から考えるとよいかもしれません。土地から購入する方とすでに土地がある方とでは、建物にかけられる金額が変わります。そのあたりを考慮した上で計画地を決めて行くのがよいと思います」
家づくりの予算オーバーを防ぐ方法
設計が完成し、依頼者もデザインや構造を気に入っているものの予算オーバー…ということもある。そういったケースが生じた場合、どんな提案をするのだろうか。
「弊社の場合は、設計事務所と工務店が1つになっているので、設計作業も工事部とやりとりしながら進行していきます。したがって、予算が合わないという現象はあまりないですね。予算がオーバーするのは当初の設計より追加項目が増えた場合です。
コスト調整は追加項目を中止する場合もありますが、それ以外の方法としては小さい減額項目をたくさん作っておくことです。5万円のコストダウンを10項目作ったら50万円、あるいは20項目作ったら100万円減らすことができますよね。優先順位をつけて順位の高いものは採用し、どうしても必要ではないというものは思い切って中止する。そのようなことを精査していくと、個性を反映させたスリムな住宅になると思います」
社内で設計から施工までできる強み
建栄の金野純一社長(写真上)はゼネコンの現場監督を経て父親が創業した建栄に入社し、大工の道に進んだ。一方、竹内さんは設計事務所勤務を経て、数々の別荘の設計を手がけ「住宅作家」として経験を積んできた。実はこの2人は高校時代、野球部の先輩(竹内さん)・後輩(金野さん)という間柄。だからだろうか、社内には和気あいあいとした空気がたなびく。
「ちょっと乱暴な言い方で申し訳ないのですが、設計図があれば誰がつくっても同じ物体はできます。けれど、私にとっては『誰がつくるのか』ということがとても重要で、その主役になるのが大工の金野です。考える側とつくる側はある意味『水と油』なのですが、なにせ15歳からの関係性がありますから同じ方向性に向かって言いたいことを言い合い、悩み考えながらつくっていきます。建主さんのなかには『暮らし始めた空間が何となくまろやかな感じがする』と表現される方がいらっしゃいます。それは私と金野の関係性が土台になったやりとりから生まれる質感なので、たぶん他ではまねできないでしょう」と竹内さんは語る。
注文住宅の建築は依頼者の家への思いやライフスタイル、価値観などをすくい上げることから始まる。竹内さんはどんなことに注力しながら設計するのだろうか。
「別荘地で1年のうち数か月を過ごしながら、数多くの別荘を設計してきました。リゾート地での休息の時に感じる『穏やかさ』『非日常の空間』を家という日常の器に盛り込むことが得意です。影の中でより濃く光を感じたり、閉塞感の中から伸びる視界であったり、季節ごとに表情を変える植栽であったり、少ない線で豊かな輪郭を描くよう、心がけています」
これからマイホームを所有したい人に
最後に、いつか自宅を所有したいという夢のある人に向けてのメッセージをお願いした。
「個人的には3階建てより2階建て、2階建てより平屋が住みやすいと思っています。家族の人数にもよりますが、できる限り建物を小さくつくり、敷地を大きく使う(空地を残す)ことをお勧めします。隙間が出来るとそこに「たまり」ができます。光が入り、風が入り、植物を植えることができます。建物を小さくつくってお金は、材料に回しましょう。経年して風合いに変わる素材を職人の手でつくりましょう。そして傷んだところから傷んだところだけメンテナンスしながら維持していきましょう。多分それが『上質な暮らし方』だと思います」