毎週火曜日放送の「ガイアの夜明け」は、さまざまな日本経済の裏側を伝えるドキュメンタリー番組だ。
10月15日(火)の放送では、全国の農家たちが集う自慢の絶品グルメのコンテストに密着。
"メロン農家"を経営する父と娘の奮闘に迫る。
地方の素材とコラボレーション「にっぽんの宝物」
日本の農産物は“安心安全で味が良い”というイメージが強いと言われており、世界でもトップクラスを誇っている。
しかし、日本の高齢化社会による後継者問題や、消費者がさらに高い品質を求めるようになっており、農家は日々悩まされている。
「ただ良いもの」を作っていても生き残れない時代なのである。
そんな農家の危機を救うため、7年前から開催されているのが「fa-arrow-circle-rightにっぽんの宝物グランプリ」だ。
「にっぽんの宝物」とは“地方の素材を、コラボレーションとアクティブラーニングの力で全国・世界へ!”をコンセプトに無名の農産物をヒット商品へと生まれ変わらせる取り組みを行っている。
にっぽんの宝物に参加するためにはまず農家などの生産者はセミナーに参加する必要がある。
セミナーでは、農家だけでなく漁師やホテルシェフ、デザイナーなども参加。
そこで農家が異業種の人たちと出会ってコラボレーションを行い、今までになかった商品づくりへと導くのだ。
開発する商品が決定したら、7地域で開催する地方大会に出場。
全国大会への進出権を獲得できるのは、地方予選で勝ち抜いた商品のみ。
全国大会でさらに勝ち抜くことができれば、シンガポールで開かれる世界大会への出場が決定する。
地方大会、全国大会、世界大会とそれぞれのグランプリを獲得しても、賞金は無し。
しかし、グランプリを獲得すれば、商品を国内外にアピールすることができ、知名度が上がるという最大のメリットがある。
昨年、グランプリで有名になった「ミルコロエイジングヨーグルト」
2018年のにっぽんの宝物でグランドグランプリに輝いたのは熊本県合志市にある「fa-arrow-circle-rightオオヤブデイリーファーム」が製造する「ミルコロエイジングヨーグルト」。
ミルコロエイジングヨーグルトは「ミルコロ」と呼ばれて愛されており、ジャージー牛から絞った新鮮なミルクを使用。
クリームチーズのような濃厚な味わいとさっぱりとした味わいのが楽しめる2層式が特徴のヨーグルトだ。
ミルコロエイジングヨーグルトがグランプリに輝いてからというもの、その売上は鰻登り。
こだわりの牛乳で絶品のヨーグルトを作り出したのは7年前、今でも1番のファンは奥さんだ。
ヨーグルトが食べたくて毎日食べるためにお嫁に来たという妻の沙紀さん。
結婚した当初は月の手取りが5万円だったが、今では年間の売り上げは約1臆5000万円を超えるという。
同年、特別賞を獲得した沢渡の茶大福は皮にも餡にも茶葉を練りこんだ大福だ。
そんな茶大福を生み出した茶農家である岸本さんの生活も特別賞を獲得してから、年間10万個を販売する大人気商品へと生まれ変わった。
「にっぽんの宝物」を主催しているのは誰?
そんな「にっぽんの宝物」を主催しているのは企業向けの人材育成に携わっている羽根拓也さん、52歳。
羽根さんは「にっぽんの宝物」をほとんど自費で運営している。
その理由を羽根さんは「日本の地方には隠された宝物があると思っている。少子高齢化でいいものを継げず生業にすることができない人が増えてきている。すごくもったいないので、売れる成功事例を作りたい」と話す。
全国で開催されるセミナーは6月3日、長崎県島原半島でも開催され、47人の参加者が集まった。
地元の農家やパティシエ、デザイナーなど異業種が揃っていた。
セミナーでは、羽根さんが売れる商品を作るためのポイントを伝授。
羽根さんは「コラボレーションによって、今までにないような商品が出ている。シェフと組めば新しいものが生まれ、デザイナーと組めば見せ方を変えてくれるかもしれない。」とさまざまな切り口から新たな商品や売り方を考案。
黒毛和牛を作っている業者と野菜農家、それぞれの良さを生かしてセットで売るなども可能だ。
生産者やシェフ、デザイナーなどが名刺を交換するこの場は「出会いの場」としても有効活用できる。
「父のメロンの美味しさを伝えたい」娘の想い
そんな中、セミナー参加者の栄木志穂さんはイチゴを持参した。
しかし、志穂さんは「栄木農園」からイチゴを持参したものの、本当は“父のメロン”を出品したいのだという。
「父のメロンのおいしさを伝えたい」と話す志穂さん。
栄木農園は長崎県雲仙市にある200年続く農園だ。
志穂さんの父である栄木正孝さんは農家でメロンを作っている。
正孝さんが手がけるのは「雲仙グリーンメロン」と呼ばれ、同じ品種のものと比べても、はるかに大きく糖度が高いと評判。
しかし、正孝さんは夫婦2人で生産しているため、年間約800個の生産が限界。
正孝さんは「このメロンは身近な人だけが知っているメロン。それを商売にして一般の人に食べてもらうのは2人だけではできない。」と言い、新規の売り上げを伸ばすことができず、地元の常連客だけに販売となっている。
娘の志穂さんは別のハウスできゅうりやイチゴなどを育てていた。
その理由は、志穂さんは「父のメロンを継ぎたい」と思っているが、父は「雑な人間には触らせたくない」と言っているからだ。
志穂さんは8年前に離婚し、シングルマザーとして3人の息子を育てている。
志穂さんは「所得が300万円くらいしかないので、きつい。どうにかならないかという気持ちで見つけたのがにっぽんの宝物だった」と話す。
しかし、セミナーに参加するだけでなく、商品を開発しなければ「にっぽんの宝物」ではグランプリになれない。
そこで志穂さんはセミナーで知り合った創業102年の酒蔵を訪れ、コラボ商品の開発に取り組むこととなった。
「にっぽんの宝物」島原大会当日の様子とは?
そして6月下旬に開かれた「にっぽんの宝物」グランプリ島原大会。
今回は各地のセミナーで生まれた70チームが7つの地方大会が争い、その中で優秀な成績を収めた27チームが全国大会へと進めることができる。
大会当日、島原大会からは17チームが出場し、審査するのは地元百貨店のバイヤーや料理研究家だ。
志穂さんは酒蔵とタッグを組み、なにを生み出したのか。
まず皿に盛りつけられたのは甘さと塩気が絶妙な“摘果メロンの奈良漬け”、秘密兵器は”酒とメロン”を組み合わせたカクテルだ。
器にしたメロンから注がれるのは酒とメロン”を組み合わせたメロンカクテル。
実は、志穂さんらのチームは「日本酒バージョン」と「甘酒バージョン」の2種類を開発していた。
審査員は「メロンとお酒ってこんなに合うんですね」と高評価。
最後のアピールとしてマイクを握る志穂さんを会場の奥で見つめていたのは父の正孝さん。
東京への全国大会に進むことができるのはグランプリと準グランプリのみ。
島原大会グランプリは「黒毛和牛」×「黒糖」のチーム。
そして、志穂さんの「メロン」×「酒」のチームは準グランプリを獲得した。
27チームが集う「全国大会」父の想いと娘の想いは届くのか
娘の志穂さんが準グランプリを獲得したものの、すでに会場には父の姿はなかった。
正孝さんはグランプリが「黒毛和牛」×「黒糖」のチームだったので「肉に負けた」と思ったんだそう。
しかし、正孝さんの表情は明るく、「今ならもっと良い味のするメロンが出来ている。せっかく(全国大会の)機会を与えられたから、どうにかして回そうと思っている」と前向き。
正孝さんは全国大会のため、旬のメロンを30個志穂さんのために用意。
27チームが集う全国大会で、父の想いと娘の想いは届くのか。
主催者の羽根さんは「今年は誰がスターになるのか、ワクワクする。その人の人生が変わるから。」という。
7月6日、父の自信作のメロンを抱えて東京にやってきた志穂さん。
全国大会の審査員は百貨店バイヤーや料理人、ホテル関係者などとなっている。
地方大会を勝ち抜いて優勝候補とされているのは、宮崎県の「雑穀フジッリ」や長崎県の「丸ごと一頭小川牛とお殿様の黒蜜」、沖縄県からは「車海老そば」、高知県は「からすみジェラート」。
志穂さんチームはメロンのカクテルとメロンの甘酒を今回はシャーベット状にして提供。
その評価は「笑うしかないくらいおいしい。このコラボレーションはすごい。」と絶賛。
そして、最後にチームを代表してマイクを握ったのは父の正孝さん。
「100年続く蔵元と200年続く農家をこれからも守り続けていくために、このセミナーで出会い、新しい第一歩を踏み出しましたた。この新しい取り組みはこれからの日本を変える日本の農業を変える取り組みになればと願います」と満足そうに話した。
全国大会では、野菜・肉、・スイーツなどの5部門でグランプリを決定し、各部門の1位だけが世界大会へ進出する。
志穂さんチームは野菜果物加工部門にノミネート。
ここでグランプリを獲得すればシンガポール行きが手に入るが、グランプリを獲得したのは宮崎県の72歳の女性が手がけた「雑穀フジッリ」だった。
志穂さんチームは惜しくも純グランプリで世界大会進出とはならなかった。
そして、今回の世界大会でグランプリを獲得したのは沖縄県の「車海老そば」だった。
栄木親子のもとに思いがけない逆転劇が
大会終了直後、審査員の1人が志穂さんのもとへやってきた。
その人物はシャングリ・ラ ホテルの日本支社長のケック・チーハウさん。
正孝さんのメロンが気に入り、ホテルで使いたいと言うのだ。
嬉しそうな表情を浮かべる正孝さんと、喜びのあまりに涙を流す志穂さん。
2か月後、東京では再び栄木さん親子の姿が。
やってきたのはシャングリ・ラ ホテル東京。
正孝さんのメロンをホテルで使いたいという話が実現し、コース料理のおしながきに「雲仙メロン酒」の文字が。
「こんなふうになるなんて本当に夢みたいです。他の小さい農家も励みになると思う。」と正孝さんは話す。
料理長からは「また来年も次は違う商品を開発していきたい」と、今後の可能性も広がった。
雲仙市に戻った栄木さん親子はまっさらのビニールハウスへ。
なんと正孝さんが娘の沙紀さんと孫を連れて、メロンの作り方を伝授することに決めた。
にっぽんの宝物をきっかけに、正孝さんは「1代で終わったら、お客さんに対しても申し訳ない。うちのメロンの味を孫に引き継いでもらえれば」と考えが変わった。
世間ではほとんど無名だった農家が「にっぽんの宝物」をきっかけに生まれ変わり瞬間を目の当たりにした。
「日本にはまだ見つけられていない素晴らし宝物があると思っている。オールジャパンで素晴らしいものを全世界に紹介していける流れを作りたい」と羽根さんは言う。