POPで毒のあるキャラクターが人気のイラストレーター・むかいあぐるさん。
自分の作風を生かしたキャラクターを制作する一方、広告や出版物のイラストも手がけるむかいさんにご自身の活動をはじめ、フリーランスで仕事をするためのアドバイス、新型コロナ禍収束後の業界はどう変わるかなど、お話をうかがいました。
イラストレーターになったきっかけ
―むかいさんの仕事内容についておしえてください。
むかい:イラストレーターとキャラクターデザイナーをしています。雑誌、WEB、広告などのイメージ、挿絵、などのイラストや漫画を描いたり、企業やグッズのキャラクターを作ったりしています。
―幅広く活躍されていますよね。むかいさんが絵を描くことを仕事にされたきっかけは?
むかい:漫画家を目指していましたが、デビュー出来なかったことからイラストレーターになりました。漫画作品を描いて編集部に持ち込んでも、結果が出るのに時間がかかりますし。イラストレーターの方がデビューまで結果が早いんじゃないだろうかと思ったんですよね。あと、漫画の仕事がもらえないだろうか?という期待もありました。
その結果、いくつかの雑誌で自作の漫画が掲載されたり、連載を担当することが出来ました。
また、ファッション雑誌にレギュラーでイラストカットの仕事をする際に、担当編集者から「キャラクターを作った方がいい」とアドバイスをいただいたことで、オリジナルのキャラクターの創作に取り組みました。描くうちに少しづつ上達し、キャラクターデザイナーとしての仕事の幅も広がりましたね。
フリーランスのイラストレーターになるためのヒント
―イラストレーターになったことで漫画を描くようになったりと、人生ってわからないものですよね。広島出身のむかいさんは上京され、フリーランスで活動されています。仕事を受注するため、最初はどんなアクションを起こされましたか?これからフリーランスでイラストの仕事をしたいと思っている方が営業する時のアドバイスもお願いします。
むかい:まずは出版社に電話をかけてアポをとり、営業にうかがいました。現在だと発注者はインターネットでイラストレーターを見つけてイラストを発注する形が多いようですが、上京した90年代後半はインターネットは黎明期だったので、イラストの持ち込みも歓迎されました。編集者の方々に作品をすぐに見ていただけ、イラストの仕事に繋がりましたね。
現在はインターネットで簡単にイラストレーターを探せるので、出版社や企業に営業したくても会っていただける機会は少なくなったかもしれません。
また、パソコンもタブレットも発達し、イラストレーター人口も増え、クラウドソーシングで安く仕事を依頼出来るサイトなどもあるので、今からフリーランスのイラストレーターを目指すのは厳しい時代かもしれません。
けれど、SNSなどで発信出来る時代なので、本当に実力がある方は注目され、昔よりもすんなりとイラストレーターになりやすいかもしれません。
仕事に必要な知識やツール、マネージメントについて
―SNSで作品を発信出来る時代です。イラストレーターは制作する時の仕事環境や自分のことを誰かに知ってもらう機会も大切ですね。どんなことを心がけていらっしゃいますか。
むかい:イラストが描ける環境のパソコンとプリンター、名刺は当然として、自分のポートフォリオ的なホームページを作った方がいいと思います。
なぜなら、作風は名刺だけの情報では分かりにくいからです。発注する方も作風や情報をたくさん見ることが出来て安心ですし、他の人が誰かに紹介するときにもホームページを持っていた方がよいと思います。
ひと昔前は、絵具と筆でイラストを描き、それを提出した後はグラフィックデザイナーがレイアウトを担当することが多かったのですが、近年はイラストレーターが自分のイラストをレイアウトし、完全入稿データとして仕上げることもあります。
イラストレーターに求められる仕事の幅も増えてきたので、ある程度、グラフィックデザインや入稿データ作りの知識は必要だと思います。
―フリーランスのクリエイターはマネージメントも自分でやらなくてはなりませんよね。報酬の交渉など、お金のことは苦手…という声もよく聞きます。この件、むかいさんはどう考えていらっしゃいますか?
むかい:フリーランスは金額交渉がつきものです。金額が高すぎると発注を取り下げられますし、低すぎると割にあわないので、金額設定や報酬の交渉は慎重に行った方がいいでしょう。
売れっ子のベテランでも金額を上げすぎると、発注されなくなるケースもあるようですから。
―仕事の拠点である東京圏の魅力は何でしょう?
むかい:東京でどんな小さな仕事をしても、全国区の仕事を受けると大きなやりがいがあります。
ネットのツールが発達し、オンライン上で打ち合わせ出来る環境が整っていても、まだまだ直接会って打ち合わせをしたいという企業が多いので、東京にいるとすぐに会うことが出来ます。
また、大きな企業が東京には沢山あり、会社の規模に比例して広告媒体もボリュームがあるので、仕事を受けやすいです。地方より圧倒的にイラストを必要としていう企業も多く、営業をしていなくて普通に暮らしていても偶然の出会いでイラストの発注をいただけるなんてこともあります。
オリジナリティを追求したキャラクターと商業イラストの違いは?
―むかいさんの描くキャラクターには「毒のあるPOPな作風」という言葉では表現し足りない個性を感じます。一貫して作風の路線を貫き通してらっしゃるような…。どんなテーマやストーリーをおもちですか?
むかい:可愛いくて毒があったりインパクトを付けることによって、印象に残る忘れられないイラストやキャラクターを作ることを心がけています。
個人的にイチゴが好きなので、イチゴキャラクターを数多く作っています。また、各キャラクターに性格を持たせてストーリーを展開した「ラビベリーちゃん」というシリーズを雑誌で始めて、描いてから20年以上描き続けています。
これほど長く描き続けていると、ラビベリーちゃんが自分の分身のような、実際に存在するんじゃないか?という感覚になり、心の中で話しかけることもあります(笑)。人が聞いたら気持ち悪い、なんとも不思議な感覚です。そんな分身を海外でも展開出来たらいいなと思い、今営業している最中です。
―ラビベリーちゃんはむかいさんの分身で、きっとこれからも世のなかで大暴れして(笑)楽しませてくれるのでしょうね。一方、商業的なイラストも沢山描かれています。こちらの分野はどんなことを考えて制作されていますか?
むかい:クライアントに芸術っぽいイラストを求められることもあるのですが、私は芸術家ではなく商業イラストレーターなので、クライアントの意向をキチンとくみ取るようにしっかり打ち合わせをします。どのようなターゲット層なのか、どのような狙いがあるのか、元気が出る色、情熱的な色、クールな色、優しい気持ちになれる色など、色がもつ心理効果なども入れながら、クライアントの予算に合わせて仕上げています。
予算に余裕がある場合は、ラフのやり取りの回数を多くし、いくつかの案を提出します。逆に予算がなく困っている企業にも対応出来るように、お互いのやり取りを簡潔明瞭にし、少ないやり取りの中で意向をしっかりとくみ取り、仕上げるようにしています。
―企業とのコラボもされていますが、どのようなアイテムをどんな思いで作られていますか?
むかい:広告用のイラストやキャラクターは宣伝要素が入るのに対し、購入を目的にしたキャラクター商品はデザイン的な要素が占める割合が大きいかもしれません。
手がける時は、ただキャラクターがぽつりっと入るだけにならないようにバランスや配色、配置などを重要視しています。
私はウサギとイチゴが好きなのですが、それが幸いし、「うさぎの島」こと大久野島(広島県竹原市忠海町)への船が発着する忠海港の「うさぎの島への玄関口」グッズを制作しました。
マスキングテープ、缶バッチ、ポストカード、ステッカーを作らせていただいたのですが、この島には日本のみならず海外からも観光客が多く、世界の共通言語になりつつある「KAWAII」を意識し、私なりの「可愛い」をウサギとイチゴのキャラクターで詰め込みました。
日本人の描く独特のKAWAIIは日本人にしか描けないらしく、海外の方には新鮮に映るみたいです。
コロナ禍終息後、アートイベントやビジネス展示会はどう変わるか?
―アートイベントや展示会などにも参加されていると思います。イベントの趣旨や出品内容はどんなものでしょうか。また、参加したことで何かに繋がったことはありますか。
むかい:一般客向けのアートイベントには積極的に参加していないのです。独自でグッズや絵を売るのはあまり興味がなく、お声がけいただいて興味があるものがあれば参加しています。
ただ、来場客20万~30万人ほどの大きなビジネス展示会には年2回ほど参加しています。企業が出展し、各社の新商品やサービスなどをアピールするという趣旨の展示会で、小売業や飲食業、メーカーやメディアなど、様々な企業が新しい商品などを探しに来場するものです。この展示会には日本人はもちろん、海外からの来場者も多いですね。
会場では、ギャラリー(ブース)で作品展示をするのではなく、ビジネスに繋がるようなポスターを展示し、チラシを配るというスタイルで参加しています。毎回、営業方法を試行錯誤していますね。この展示会では企業の案件がよくいただける他、海外の企業からもお声がけをいただいたりします。また、広告代理店の方がいらっしゃることもあり、直接やりとり出来る点もメリットに感じます。
―コロナ禍が終息に向かっても、当分、三密を心がける人は多いかもしれません。アートイベントや展示会など、人と人の集まる会場は三密の場であるように思いますが、今後このようなイベントはどうなっていくと思いますか?
むかい:いち早く、インターネット上でギャラリーを展開したり、ライブをされた企業やアーティストも多く、どんどんインターネットを活用したイベントに置き換わっていくのでしょうか。データを配布し3Dプリンターで立体化、VRゴーグルの立体映像などの技術、課金のシステムなど既存の技術がどんどん加速して行き、ビックリするような技術が出て来るかもしれません。
また、空調やマスクなどの防御服が発達して、今までになかった技術やファッションジャンルが確立され、子供の頃にめくった図鑑にのっていたような近未来が訪れるかもしれません。「近未来ファッションで新しい技術を使ったインターネットギャラリーでアートを楽しむ」時代が来るかもしれませんね。
『西日本豪雨復興応援アート展』主催者としての思い
―2019年は広島県呉市の大和ミュージアム他で『西日本豪雨復興応援アート展』を企画・実行されました。著名な漫画家やイラストレーターといった方々がむかいさんたち主催者の思いに賛同され、作品を出品されましたよね。アートが被災地や被災された方たちにどんなことを伝えたでしょうか。エピソードも交えておしえてください。
むかい:2018年に地元の広島や近県が西日本豪雨災に襲われ、被害にあった方や被災地の観光応援が出来ればと思い、多くのアーティストの方に協力をしていただきました。展示をご覧になった地元の方が涙され、「ありがとう」や「元気が出た」と多くのお声をいただけたり、ワークショップを開き、被災地の子供たちと漫画やイラストをいっしょに描きました。子供たちの笑顔を見て主催者の私たちが元気をもらいましたね。
このアートイベントは、2011年の東日本大震災で漫画家など多くのアーティストが集まり被災者を支援するために同人誌を作って収益を寄付するという活動を見て、アーティストならではの素敵な活動に感動し、そんなお手本があったからこそ行うことが出来ました。
『西日本豪雨復興応援アート展』はアーティストに限らず、自分たちで出来ることを考える機会になり、誰かに繋がっていけばいいなと思います。新型コロナウイルス感染拡大予防もみんなで協力し、乗り越えていけたらいいですね。
―むかいさんがこれから取り組んでいきたいことをおしえてください。
むかい:これからは、海外での活動も視野に入れつつ、地元の広島でアート活動したり、地元に貢献出来る人間になりたいですね。さきほどお話した『西日本豪雨復興応援アート展』の展示作品は地元のNPO法人に寄贈させていただいて、有効活用していただく予定です。
実は今、西日本豪雨復興応援アート展の出品作家の作品などが詰まった本を2020年7月の発売に向けて作業中です。デザイン制作料を含む印税などは全額、被災地に寄付させていただきます。
これからも見た人を驚かせ、ハッピーにさせる「KAWAII」むかいあぐるワールドを楽しみにしています。ありがとうございました。